ホーム < キリスト教学校教育 < 03年1月号 < 3面


第45回学校代表者協議会
主題 「情報化社会におけるキリスト教学校教育」

発 題
高等教育における課題とeラーニングによる
教育パラダイムシフト

玉木 欽也

 日本政府のe-Japan2002プログラムにより、2005年度までに我が国がITの人的資源大国となることをめざす「IT人づくり計画」が発表されている。この中では、『1、学校教育の情報化等、2、IT学習機会の提供、3、専門的な知識または技術を有する創造的な人材の育成』が指摘され、人材育成のための教育が日本の重要国策として取り上げられている。そのほとんどが、eラーニングに深い関係をもっている。特に3の中では、アジア各国のIT人材育成のためにeラーニングの普及促進が明示されている。このように教育革新とそのためのeラーニングは新世紀の最重要課題の一つとなっている。

 「eラーニング白書 2002/2003年度版」によると、eラーニングを次のように定義している。「eラーニングとは、情報技術によるコミュニケーション・ネットワーク等を使った主体的な学習である。ここでは、コンテンツが学習目的に従い編集されており、学習者とコンテンツ提供者の間にインタラクティブ性が提供されていることが必要である。ここでいうインタラクティブ性とは、学習者が自らの意志で参加する機会が与えられ、人またはコンピュータから学習を進めていく上での適切なインストラクションが適時与えられることである。」

 ところで、 日本経済研究センターの報告によると、欧米先進国とアジアの主要国のなかで、日本の潜在競争力が大幅に低下している。1990年に31カ国・地域内で総合3位だった日本は、1998年〜1999年で16位に順位を下げている。これは、教育面あるいはIT(Information Technology)化で、シンガポール、香港、台湾、韓国などに遅れを取り始めたことが一因となっている。IT化が進んでいるこれらのアジア主要諸国は、eラーニングの関心も高く、大学などの高等教育機関では、欧米の大学と連携してeラーニングシステムの導入がすでに始められている。日本経済が厳しいなかにあって、特に優秀な人材が不可欠であるにも関わらず、その意味から教育水準の低落は、日本の国際競争優位性の失墜を招きかねないという恐れがあるということを問題提起したい。

つまり論点は、大学は国際レベルで通用する学部卒業生や大学院修了者を、社会に対して品質保証をしてきちんと送り出してきたのかということである。さらに、専門知識や技能の伝授はもとより、「自己学習力」の養成や、新しい問題解決をするための研究能力の向上が達成できるカリキュラム体制と教育システムを構築してきたのかとうことである。そして、何よりも教育と研究指導に関してプロフェッショルな教授陣を育成し続けてきたのかという、大学の本質を問う重要な課題である。これらの問題を真剣に考え直さなければ、将来に向けて国際競争力を維持することすら望めないということを、本発題を通じて訴えたいのである。

 大学教員は、個人の研究は大切にする傾向はあるが、それと共に、いやそれ以上にもっと教えるということに積極的になるべきではないか。教員として担当している科目の学習効果を上げたいと思うなら、教育工学でいう「授業設計(ID: Instructional Design)や授業戦略」などの専門的な知識と技能が必要なことを再認識しなければならない。それを従来までは、学習内容の違いに関係なく、対面授業型で講義形式の授業一辺倒であったり、教員個人の技能や経験によって、授業実施と単位認定を何とか乗り切ってきた。

 しかし、一言で授業科目といっても、さまざまな学習形態が必要になり、教えたい科目の授業内容や演習内容の違いによって、従来型の対面授業や講義形式、基礎的な実験や実習などでは学習効果が上がらない場合があることを問いなおさなければならない。学習目標と学習内容の特性に合わせて、社会で求められている基礎知識と専門知識・技能を身につけさせることができるように、インストラクショナル・デザインの継続的な研究、eラーニングシステムのインフラストラクチャとなる学習管理システム(LMS: Learning Management System)の整備や、教授陣自体のファカルティ・ディベロップメント(Faculty Development)が必須である。

 一方、学生側には、講義には出席していたが本当に学んでいたのか。キャリアアップのための目的意識をもってニーズにあった学習をしているのかを問い直すことが求められる。基本知識や専門知識は知っているが(あるいは文献をとおして読んではいるが)、実践に役立てられるのか、問題解決力、問題構造化力、情報収集力、創造力、企画力、協調性、そしてコミュニケーション能力は本当に身についているのか。さらに高度なことにチャレンジしていくための「自己学習力」の素養だけでもつかめたのだろうか。

 このような課題に適確に応えるためには「教育する組織づくり」と、「自律的に学習する知能集団」の姿が、これからの社会ニーズにマッチした人材育成の方向性であろう。アジアのなかでも先端的な教育革新をめざしている国々と比較して遅れ気味になっている「日本の大学教育の変革」に、今こそ真剣に取り組むべきときがすでにきていると思う。

< 青山学院大学経営学部教授 >
キリスト教学校教育 2003年1月号3面



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