ホーム < キリスト教学校教育 < 03年5月号 < 2面

第44回中高研究集会
共に重荷を担うキリスト教学校


講演 生徒の心の問題の兆候

長尾 博

 イラク戦争も始まり、わが国の経済不況も続くまま、若者の集団自殺が続いているという暗い昨今です。本日は、私の臨床経験をもとに心の問題のシグナルを早期にとらえるにはどうしたらよいか、また学校における心の相談システムについて、最後に生徒の親への対応について特にお話ししたいと思います。


心の問題の種類と増加

1.心の問題の現れ方
 心の問題の現れ方は、問題行動、精神症状、身体症状の3つがあげられます。問題行動は、不登校、非行、習癖、無気力、引きこもり、暴力、虐待などがあげられます。精神症状は、うつ、心気、強迫、不安、恐怖、妄想などがあげられます。また、身体症状は、不眠、拒食、過食、頭痛、腹痛、下痢などがあげられます。最近では「切れる」などといって、行動で心の問題を示す子どもが目立っているようです。これは、心の未熟さやマスコミの影響などが原因としてあるようです。

2.最近注目されている心の問題
 最近注目されているのは、不登校、これは増える一方で理由のない不登校が目立ちます。また、いじめも減少してはいないようで、中学一、二年生や小学五、六年生に多く、自分たちと異なる者に対していじめるのが特徴です。また、少年鑑別所などでは、以前と異なって今まで何の問題もなかった少年が突然、万引や傷害を犯して入所する例も目立っているとのことです。また、引きこもりも男子に多く、不登校をきっかけに増えているようです。無気力も目的のない生き方の現れとして減ってはいないようです。さらに、小学校や中学校の学級崩壊や親による子どもの児童虐待も目立っています。

3.心の問題と学力との関係
 心の問題と学力とは相互関係があります。つまり、心の問題が生じると学力は低下し、逆に学力低下をきっかけに心の問題も生じやすいようです。二〇〇一年より大学生の学力低下について特に論議されています。


 私学中高の今後の行方

私学は今後、どのような方向に進めばよいのでしょうか。これから先は、私の判断ですが、やはり進学中心の学校か、または、心の問題をケアしたり、生徒個々の個性を養う学校にしていくかだと思います。前者の方向は、高校野球のように選ばれた学校となっていくでしょう。後者は、文部科学省も奨励するあり方で、例えば、不登校生徒をケアしたり、スポーツや芸術など勉強以外の能力を養う学校のことです。

 ところで、文部科学省は「ゆとりの教育」を掲げ、特に生きる力を養うこと、自己学習能力を養うこと、また総合学習といって、創造性や地域との交流、ボランティア経験を奨励しています。さらに生徒やその親へ情報を開示して、説明責任 accountability をもつことを進めています。しかし、この「ゆとりの教育」を掲げたことで学力低下が注目され始めました。実際に高校生の学習時間は減り、基礎学力も低下しているようです。この反省から、最近、文部科学省は、最低基礎学力の徹底をはかるようになりました。


 キリスト教主義の私学中高の行方

 最近の心の問題をみていくと、キリスト教を建学の精神とする個性・自己の確立を隣人愛のテーマが強調できると思います。

 しかし、人々は、この逆の方向に進んでいるようです。つまり、自己の確立どころか自分のない、主体性のない人々が増えているようです。その原因として3つ考えられます。一つは、家庭での教育で、少子化時代を迎え、過保護、過干渉的な親が子どもの自己の確立を妨げていること、一方、自己愛的な親も増えて、放任、虐待する親が子どもの心を傷つけている点があげられます。また、学校での教育においても文部科学省は、自己学習能力の育成を強調していますが、相変わらず手取り足取りする教師がよい教師としてとらえられ、チームティーチングどころか、オレのクラスとして管理している教師がよい評価をうけているという問題があげられます。また、幼児教育においても保育園や幼稚園での自由な教育が小学校へ入学して集団教育できない学級崩壊を生み、がまん強さの育成を軽視する幼児教育が小・中学校において非行を生んでいるようです。

 このようなことから、今こそキリスト教主義の私学中高は、本来、わが国のもつ心の問題を防ぎ、強い心の育成がその建学の精神にあることを強調すべきだと思います。


 心の問題の早期発見とその対応のシステム化

 それでは、本題に入っていきましょう。まず、心の問題の兆候についてですが、これは確実な兆候というものはありません。なぜなら、青年期そのものが皆、心に何らかの異常や問題をはらんでいるからです。

1.心の問題の兆候
 青年期、特に中学や高校生時において親子関係の独立と依存の葛藤やアイデンティティ(自分とは何者か)を確立していくうえでの葛藤を、一般に「青年期の危機」といいます。以前の青年は、ほとんどこの危機に直面していたのですが、現在では、危機を回避して、快楽(その日のテレビ番組、その日の夕食、友人との遊び)に価値をおき、危機に直面する青年は減っています。3分の1説といって10人中3人ぐらいが青年期の危機に直面しやすいといわれています。さらに、この3人のその後のフォローアップでは、一人は無事回復し、一人はノイローゼとなり、もう一人は精神病となるという結果が出ています。私の個人的研究結果でも以上のようなことが大まかにいえました。

 この危機は、あるライフイベントが生じて訪れやすいようです。ライフイベントとは、予期せぬ出来事のことで、例えば成績の低下、親の死、友人とのトラブル、祖父母の死などがあげられます。私の研究では、成績の低下をきっかけに青年期の危機に陥りやすい傾向が強いことが明らかにされています。

 さて、この青年期の危機や心の問題の兆候というものがあるかといえば、私の臨床経験をもとに表1のようなものがあげられます。


 左欄が学校生活上の、右欄が家庭生活上の兆候です。まず、授業場面で欠席、遅刻が増えるということがあげられます。特に5月のゴールデンウィーク明け、9月上旬、1月10日前後、2月12日前後が注意すべき点で、この時期に登校刺激を与えると不登校生徒も今よりは減ると思います。また、休み時間や課外でよく保健室へ行くようになることも兆候として考えられます。また、家庭においての食事状況、眠れているか、勉強時間、親子関係のあり方の変化なども重要な兆候だと思います。

 このような兆候をみて、教師は生徒に最近、悩みはないかと相談していくことが心の問題の予防となるのです。しかし、わが国の学校において、あらゆる調査結果から、心の問題が生じた時の相談相手としては、一番が友人であり、教師は毎年全体の5%の生徒でしか相談相手として関わっていないのが現状です。この現状を打開していくには明確な相談システムが確立していなくてはなりません。

2.心の問題の相談システムについて
 学校によって相談システムは異なっていますが、私の理想とする相談システムとしては図1に示すものがあげられます。


図1より、学校も家庭を同じように父親と母親がいて父親に相当する左側の生徒指導教師が生徒にケジメを指導する意味で大切ですが、最近ではこの機能も弱化しつつあります。また右側の母親的な養護教諭による心身のケアをする役割も大切です。生徒は、できれば自発的に中央に記すカウンセリングルームを活用してもらいたいと思います。心の教育相談員やスクールカウンセラーについては、1990年代に文部科学省が特に公立の学校を中心に進めていった事業ですが、まだ混沌としており、あまり臨床心理士に期待できないと思います。むしろこれからの教師は、ひとりでクラスや生徒を背負うのではなく、チームティーチングやカウンセリングマインドを身につけて生徒の心の理解を深めるべきです。また、校長、教頭、宗教主任などは、民主的なリーダーシップを発揮して教師の研修、地域や父兄との交流と連携をはかるべきです。特に父兄へは、記述したキリスト教主義にもとづく個の確立の教育、幼児教育の重要性、地域の者どうしの支え合いを強調すべきでしょう。

 よい学校とは、図1に示す多くの矢印の線が活性化して、関係、連携がよくとれている学校だと思います。実際に活性化していくには多くの労力と時間を要すると思います。

3.親への教師の対応
 現代において、家族の関係がうまくいっていいることは少なく、さまざまな心理的問題をもっているといわれています。一般に精神的に健康な家族とは、ほどよくまとまりがあること、また、ほどよく役割の柔軟性があることが強調されています。この、ほどよくという所が大変難しいようです。生徒の心の問題に対応していく際、どうしてもその親と関わらなければなりません。

 教師は、問題をもつ家族に対してどのように、何を目的に関わればよいのでしょう。私は、教師という多忙な職務を考えて、子どもへの親の養育態度(関わり方)の改革への指導に絞って親と関わることをお勧めします。表2は、親の養育態度に即応した指導のポイントを整理したものです。


表2のカテゴリーを間違わないように指導していくことが大切です。拒否とは、自分のことが忙しくて子どもとの関わりを拒否すること、過保護とは、わがままにさせ、子どもとの社会性を軽視するタイプで、過支配とは、ある価値観を子どもに押し付けるタイプで、溺愛とは、夫婦間の不満から子どもをペットのようにケジメなく可愛がること、不一致型とは、両親の教育方針がズレているタイプのことをいいます。

 このタイプのどれかをとらえて親の関わり方を変えていくのです。しかし、今日では、問題意識のない親も多くいます。その際、時間をかけて親と関わる必要があります。また、外罰的というか人のせいにする親もいます。その場合、訴えをよく聞き、自分の問題として気付くまで待つ力がいります。また、自己愛的で自分の仕事や趣味、性への関心をもち、子どもと関わらない親もいます。その場合、子どもを放っておけば今度どうなるかを強調すべきでしょう。いずれにせよ、教師は親の気持ちをよく受けとめて聞くことが大切です。その意味からカウンセリングマインドが必要でしょう。

 以上、私の独断ばかりで心の問題の兆候、相談システム、また親との関わり方について述べてきましたが、少しでも学校現場でお役に立てたら幸いです。

(参考文献)
長尾博『改訂学校カウンセリング』ナカニシヤ
長尾博『臨床・心ほぐし13講』ブレーン出版

〈活水女子大学教授〉
キリスト教学校教育 2003年5月号2面


(C)2002-2003 キリスト教学校教育同盟