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ブックレビュー
編集委員会編   横浜共立学園資料集
棚村 重行
 およそ「生命力」に満ちた個人や共同体は、過去・現在・未来にわたる歴史形成の営みに必ず努めるものである。では、「歴史とは何か?」と問われれば、私はこう答える、「@過去の出来事としての歴史を、A証言としての歴史(一次資料)を通し、B現在の立場から学問としての歴史(学)により再構成し、C読む物語としての歴史(二次資料)を生み出し、Dそれを読む共同体の未来としての歴史を形成すること」であると。

 さて、近代的女子教育機関として最古の歴史をもつ学園の一つ、横浜共立学園は、先の創立百二十周年にあたり「二次資料」なる『横浜共立学園百二十年の歩み』(以下『歩み』)を刊行された。今回は百三十周年にちなみ、一八六〇年から一九四五年までの学園の「一次資料集」を本年三月に出版された。

 結論を言えば、本書の意義は、学園の「現在と未来を形成する」人々と学園外部者の為に、「証言としての歴史(一次資料)」を纏めてプレゼントしてくれた点にある。だから、この贈り物を準備された現在のリーダー、学園関係者が抱く自らの歴史への熱い思いの中に、学園の「生命力」の並々ならぬ発露を私は感じる。

 本書の構成と内容を以下紹介しよう。一八六〇―一九四五年までの学園の歴史を四期に分け、翻訳資料、同時代資料、統計資料、重要英文資料などが多岐にわたり収集・収録されている。

 第一期は「WUMS〔米国婦人一致外国伝道協会〕設立と日本宣教(一八六〇―一八七一)」と題する。この学園の最初期の女性宣教師たちを「母たち」とすれば、「母の実家」にあたる十九世紀アメリカ・プロテスタント系諸教派の一致協力により設立された海外伝道団体の資料が収録されている。この部分は、十九世紀のアメリカ教会史・女性史の貴重な一断面をも証言する。

 第二期は、「初期宣教師時代(一八七一―一九〇〇)」、第三期は「ルーミス校長時代(一九〇一―一九三六)」と銘打たれ、学園の「出産」を支援したWUMS、「出産」と「育児」に携わった初期婦人宣教師、C・ルーミス宣教師、そして誕生し成長する「娘たち」、女学校・神学校に関連した諸資料部分である。ここを読む者は、初期の学園に漲っていた「(知識を)教え、(生活を)導く」だけでなく、「(魂に係わり)救う」教育の何たるかに深く心打たれるであろう。反対に、「子供が見えない」との昨今流行の嘆きは、「教え導く」者が「魂に係わる」情熱を失い「精神なき専門人」(M・ヴェーバー)と化す時の口から出る勝手なぼやきではないかと深く反省させられる。

 第四期は、「日本人校長時代(一九三六―一九四五)」で、国際主義から超国家主義へ傾斜する情況の中、学園の経営と教育の主体は日本人校長なる「父たち」へ移される。だが彼らの負った歴史的苦難と共に、その教育理念が日本主義的キリスト教のそれに変質する深刻な問題を証言する。「国家と教育」関係の歴史的教訓に富む資料群である。

 最後に、既刊の「二次資料」である『歩み』を手引きとし、本書をじっくり味わい読めば、学園関係者のみならず、広く日米プロテスタント教会史、キリスト教教育・学校史、女性史などの関心と「史眼」をもつ方々にも、それぞれに「お宝」が隠され発見出来る貴重な「一次資料集」となることであろう。
2004年3月31日発行・菊判・1206ページ

〈東京神学大学教授〈教会史・宗教史〉〉
キリスト教学校教育 2004年10月号4面


キリスト教学校教育同盟