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久世了新理事長あいさつ

 現在の日本の社会状況を、私は「国民的五月病」と言えると思っています。黒船来航に強い危機感を持った反幕派の中から現れた維新勢力が新政権を打ち建て、富国強兵の国家目標を掲げて国民を駆り立て、大多数の日本人がその国家目標に貢献することに最大のエネルギーを注いだ結果として、わが国は奇跡的とも言われる産業発展を成し遂げました。しかしその産業発展は、あくまでも強兵を支えるものとしての意義を担わされていたため、やがて日本は世界の強大国の仲間入りをしようとする道を突き進んで、一九四五年の敗戦を迎えるに至りました。

敗戦によって強兵の国家目標は放棄せざるを得なくなりましたが、そのことは却って国家目標が富国に単純化されるという結果となり、日本人の多くは引き続き国家目標に自らの生きる指針を見出すという精神構造を抱いたまま、経済成長に結びつく勤労に励んできたのでした。

 しかし、一九八〇年代に入った頃には日本は経済大国ともてはやされ、まさに富国という国家目標は達成されたのでした。一途に追い求めてきた目標が達成されたあとの虚脱状態、それこそ五月病と呼ばれる現象ですが、とくにバブル崩壊後のいわゆる「失われた十年」の日本社会は、まさに五月病に陥った状態と言えます。

このような日本社会に危機感を持つ人の中から、「古きよき時代」を懐かしんで時計の針を逆に回そうとする勢力が現れてきているのです。

 もはや日本人として、国家目標に生きる指針を求める必要は全くなくなっているのです。そうではなく、国をも越えて誰とでも分け隔てなく親しみ、平和のうちに豊かな人生を楽しむ世界市民になることを目指すべきときが来ているのです。

<明治学院学院長>
キリスト教学校教育 2005年7月号2面


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