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ブックレビュー
奥村 尚彦著
ヴォーリス評伝
日本で隣人愛ヲ実践したアメリカ人

ヴォーリス来日100周年記念出版
佐々木伸尚著
今 生きるヴォーリス精神
船本 弘毅
 建築家としてのヴォーリズの名は、広く知れ渡っている。教会やキリスト教学校の多くは、ヴォーリズの設計によっているので、キリスト教界ではその名を知らない人はいないと言っても過言ではないかもしれない。しかし、伝道者、教育者、医療・社会福祉事業家としての働きは意外に知られていない。二〇〇五年は、ヴォーリズ来日から百年、生誕百二十五年の記念すべき年であるが、その時を祝うかの如くに、奥村直彦著『ヴォーリズ評伝―日本で隣人愛を実践したアメリカ人』と、佐々木伸尚著『今 生きるヴォーリズ精神』という二冊の書物が出版されたことは誠に喜ばしいことである。

 奥村直彦先生は近江兄弟社学園長、一柳記念館長などを務め、長年に亘りヴォーリズ研究と取り組んで来られた方であり、その集大成として本書が出版された。一八八〇年十月二十八日、アメリカのカンザス州レヴンワースで生まれたウイリアム・メレル・ヴォーリズが、一九四一年一月二十四日日本国籍を取得し、二月一日一柳米来留となり、一九六四年五月七日近江八幡で天に召されるまでの八十三年六ヵ月の全生涯が詳細に述べられ、その精神が伝えられている。全体は七章から成り、第一章生い立ちから来日まで、第二章近江八幡での活動開始、第三章近江ミッションの形成、第四章近江ミッションの展開、第五章戦時下及び戦後のヴォーリズと近江兄弟社、第六章近江ミッションの理想と変容、第七章結び、さらに補遺として、1・ヴォーリズの先祖と系譜、2・現在の近江兄弟社グループ、付録として、1・ヴォーリズ関連年譜、2・近江ミッション関係資料、3・書誌情報、4・讃美歌・校歌、が収められており、文字通り、ヴォーリズ評伝の決定版と言って良いであろう。

 内容を紹介する紙幅がないのは残念であるが、『失敗者の自叙伝』の中で語っているヴォーリズ自身の言葉が、彼の生涯を最も良く言い表しているであろう。

「私たちは、ただ神の意を成就するために、神の御手におかれた道具に過ぎないことを、この本により確信せしめられるであろう。この事実は、過去、現在、未来にわたって、永遠に真理である。忍んで神を待ち望み、その命令のまま行動することだけを、心がけねばならないのだ」。

 満喜子夫人はヴォーリズを「世界人類をつなぐ平和の使者」と呼んだが、まさに彼の生涯の核心にふれる表現と言えよう。

佐々木伸尚先生は二〇〇一年四月懇われて近江兄弟社中学校校長に就任、四年間の在任中に学校便り「地の塩」に書いたものの中からヴォーリズに関するものをまとめたのが本書である。内容は四部に分かれ、T今 生きるヴォーリズ精神、Uことばと学び、V人との関わりの中で、W愛と信念の人・ヴォーリズ、から成り立っている。著者は全く面識もないヴォーリズ夫妻の生き方に心を惹かれ、その精神を伝えることに近江兄弟社学園の存在理由があると信じて、語られた気迫の文章には心打たれるものがある。

 一九〇五年県立八幡商業高校の英語教師として、誰一人知る者のいない近江八幡に赴任し、キリスト教の伝道をするゆえに排斥され解雇されながらもこの地に留まり、建築設計事務所、メンソレータムの製造、サナトリウムの設立、幼稚園・小学校・中学・高校を有する近江兄弟社学園の創立とその生涯を主に仕えて生きた姿が生き生きと迫って来る。丸を画いて、その真ん中に点を打ち、近江八幡が世界の中心だ、とにこやかに語り続けたヴォーリズの信仰と生き方は、今、この国にとって、特にキリスト教学校にとって、深い意味を持つと言えよう。

〈関西学院大学名誉教授〉
キリスト教学校教育 2005年11月号3面


キリスト教学校教育同盟