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第51回事務職員夏期学校 主題講演
キリスト教学校の教育と新教育基本法
深谷 松男

 本年度事務職員夏期学校は7月28日〜30日、御殿場・東山荘で開催された。主題は「共に喜びをもって―キリスト教学校の使命を担う―」で、参加者は四十法人より百十六名であった。校長を黒瀬真一郎氏(同盟理事、広島女学院院長・理事長)、オルガニストを堀井美和子氏(青山学院大学オルガニスト)が務めた。


1.建学の精神と教育基本法

 

建学の精神とは学校の基本的教育理念のことであり、同盟所属のキリスト教学校は、いわゆるスクール・モットーの表現はそれぞれ異なりますが、福音主義キリスト教に基づく人格教育を基本として学校教育を進めるという点で、共通の理念に立っています。聖書が教えるように神を畏れ、神以外の何物も恐れない自由な自己を確立し、神の愛を覚えて他者の人格を尊重し、隣人愛に立って自主自律的に社会に貢献しようとする人格の形成であり、その上に立って、一人一人を大切にその個性と能力を可能な限り伸ばそうとする教育の理念です。この建学の精神を曖昧にすれば、キリスト教学校は存在意義を失います。

 そこで、どの学校も、その寄附行為において、福音主義キリスト教に基づく教育をすることを明記していますが、さらに日本の教育制度による学校ですので、教育基本法及び学校教育法等に則る旨を定めています。問題は、これまでの教育基本法に代えて制定された新教育基本法をどう受け止めるかです。キリスト教学校の建学精神から考えるとき、結論を先に言えば、これまでの教育基本法の最も基本的なものは保持し続け、また、その観点から新基本法の問題点を認識して、賢明に対処することです。

 

2.教育基本法の基本にあるべきもの

 

ここで最も大事なことは、個人の尊厳、すなわち人はすべてその能力によってではなく、その存在のゆえに尊重されるということで、これが教育の不変不動の基本理念であり、新基本法においても同じです。なお、これは、キリスト教人間観と一致し、キリスト教学校こそこの理念に基づく教育に貢献できるものを持っています。

  個人の尊厳を踏まえて考えるとき、教育制度は、基本的人権としての教育を受ける権利(憲26条)を保障するための制度であり、このことは世界人権宣言や国際人権規約や児童権利条約により国際的約束にもなっています。この権利は教育を受けるという受益権であるだけでなく、どの学校の教育を受けるかを選択できる自由権(これが私学の教育の自由の根拠です)と、より良き教育を求めて発言できるなどの参加権も含んでいます。

 個人の尊厳に基づく教育は、人格の完成をその目的とし、また国家を批判を許さない存在とせず、むしろ平和的な国家及び社会を形成しようとする人間を育成することを目的としていましたが、これは新法の下でも貫かれなければなりません。

 

3.新基本法の問題点

 

第一は、教育の目的として、国家のための人材育成(1条・必要な資質を備えた国民の育成)を出してきたことです。このために、前文にあった憲法の「理想の実現は根本において教育の力に待つ」を削除して、日本国の現状を大前提とし、これを発展させることを理想とする、と変更しました(前文)。そこには、個人の尊厳よりも、国際競争力を高めるため技術人材大国を目指すという国策を第一とするという主張が、教育を覆って行く危険性があります。「個人の価値を尊び」は能力主義と結び付けられ(2条2号)、「公共の精神」の強調が新たに加わり、「正義と責任」という仕方で人権尊重からくる正義よりも集団主義的秩序のための正義に傾く形になっています(同3号)。

 次に、教育の目的を実現するためとして教育の目標を設定したことで、しかもそれは、外形的に徳目を掲げる仕方で展開されていることです(2条)。外形的徳目は、「・・・する態度を養うこと」という規定の仕方に現れており、それは一定の外形的基準により評価すること、従って、強要することが可能となります。教育勅語の教育思想の復活にも通じるもので、しかも徳目はそれ以上に多くなっています。しかし、これでは、民主主義社会の形成を支える良心的な道徳心の育成ということにはなりません。良心の自由に立つ真に主体的な人格の形成というキリスト教学校の教育理念とも相反する危険があります。

 第三は、愛国心教育の問題です。本来、国を大切にするとは、国が基本的人権を実質的に保障する国家になるように努める姿勢のはずですが、伝統文化を尊重し、国と郷土を愛する態度を養うことという規定(2条5号)はこのこととは無縁である点に、大きな問題があります。

 第四は、教育における行政の優位に立つ諸規定を新たに定め、第3章としたことです。

 

4.おわりに

 

キリスト教学校教育においては、教員と職員とは、前者がいわば舞台上の出演者、後者は舞台裏のスタッフのように、緊密な連携を保って協力しなければなりません。そこで、教職員共同で、建学の精神を堅持しつつ、新教育基本法とそれによる国の教育制度の在り方に賢明に対処することが求められることを自覚して、励みたいものです。

〈宮城学院学院長〉
キリスト教学校教育 2007年9月号2面


キリスト教学校教育同盟