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一般社団法人キリスト教学校教育同盟 Association of Christian Schools in Japan Since 1910

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キリスト教学校教育バックナンバー

第46回大学部会研究集会報告
「キリスト教大学固有の使命」をめぐっての
問題意識を共有して議論が進む

小林 俊哉

 第四十六回大学部会研究集会が、九月十二~十三日、敬和学園大学が主管校として、同大キャンパスと胎内ロイヤルパークホテルを会場に35名の参加者により開催された。本稿では、集会の全体的な紹介ではなく、討議の中で提起され議論を深めたいくつかの論点を中心にご報告する。

 今年度の研究集会は、教研テーマと連携した「共に重荷を担うキリスト教大学 ―その固有の使命を果たすために― 」の主題のもとで展開された。討議に先立って行われた、敬和学園大学の北垣宗治学長の基調講演では、「日本のキリスト教大学の二極化」が指摘された。一部では学校の存在そのものが危機に瀕しているという現実的な「重荷」を実感しつつ、このようなときにあってもなおいずこに「キリスト教大学固有の使命」を見いだすべきなのか、という問題意識を参加者一同が共有して議論が進められた。

 集会に参加した大学のキリスト教教育の現況報告は、この意味でも非常に興味深いものであった。もちろん実情は大学により千差万別である。もうすでにキリスト教教育は「破綻」している、という指摘を受けた某大学が一方の極にあれば、理事長や学長の強い意向を受け宗教主任や委員会が積極的に動き、平均すると七百名ほどの礼拝参加者が与えられるという大学の例も紹介された。

 キリスト教教育の形骸化をどのようにくい止めるか、礼拝出席を促進するための方策は何か、キリスト者教員とそうでない教員の協力関係をどう構築するか、などの深刻な悩みを抱えている大学がおしなべて多い。

 この中で、学校創立者に関する映画を作成し、その過程の中でキリスト教教育の理解が「自然に促進された」という大学の紹介があった。「とにかく何かをすると何かが必ず生まれる」という報告はきわめて示唆に富んでいた。またチャペルの時間に、「神が本当におられるのなら、なぜこの世に悪や苦しみが存在するのか」などの究極のテーマのもとで、教員同士が侃侃諤諤の議論をたたかわせるという試みの紹介もあった。さらに学生の生活に浸透するキリスト教活動こそが必要なのであり、キリスト教教育は授業やチャペルだけでは不可能なのではないか。キリスト教絵画などの利用による学内雰囲気の醸成も有効なのではないかという提言もあった。

 学生に伝える言葉の重要性についても発言が目立った。学生に対してキリスト教をどう伝えていくのか、についてさまざまな試みが行われている。対話を取り入れてまず学生の声も真摯に聞くことの必要性、たとえ一人でも耳を傾けてくれる学生がいる限り語り続けることの重要性、人間とは何かという宗教的・根元的問いかけを続けながら学生を新たに発見することの必要性など、「地道な種をまく作業」のためには教員の側にもかなりの忍耐を求めることがあらためて示された。

 北垣学長の基調講演で言及された、「所有価値」(付加価値)と「存在価値」の問題も多くの大学にとって今日的な問題提起となった。いかなる「付加価値」を学生に提供できるのかが学生募集に直結する昨今、「資格取得」に象徴される実学志向もあいまって、人間が存在することそれ自体の大きな意義を忘れ去ったかのような教育が跋扈しているのではないか、という問いかけにキリスト教大学はいかなる回答を用意しているだろう。もちろん大学が教育機関として存続していく以上、「実学」や「資格」などの「付加価値」の提供も無視は出来ない。しかしキリスト教教育の根底には、まず「存在価値」の認識がなければならない。とかく「こんな学生でも入学させていいのか」という声ばかりが聞こえるいま、「それでもいいからまず入学させよう」という発想への転換が求められているのではないか、という発言には重みがあった。

 また「存在価値」を人間だけではなくあまねく存在するものに認めることが「環境教育」の可能性につながるのではないか、「存在価値」の教育が「付加価値」にもなりうるのではないか、など今後の新しい展開が期待できるような提言もあった。

 今回の集会では、特にキリスト教学校教育同盟が、そして教研がキリスト教教育のために具体的に何が出来るのか、という新しい視点の議論があったことも特筆したい。

 これについては船本教研担当理事から特に、「教研の任務は総論や方針を作るのが基本である。しかし近年具体論を求める声が強くなり、その一つとして始まったのが女子大学長協議会である」との発言があった。加盟大学が連帯して共同作業をすることも考えるべきではないか、キリスト者の教員献身者確保という喫緊の問題にキリスト教大学としていかに対応するかなど、早急に検討するべき事案も提起された。まもなく開設される「同盟ホームページ」について事務局から報告があったが、その充実と有効利用は今後の同盟活動の有力な武器となるであろう。
参加者

 講演や討議のほか、敬和学園大学の延原宗教部長による「良寛とキリスト」という刺激的なタイトルで行われた開会礼拝、敬和大のキャンパスツアー、カトリックの伝統にのっとった「朝の祈り」、胎内温泉の大自然の中でのくつろぎなど、充実した二日間を持つことができた。主管校としてお世話いただいた敬和学園大学にはあらためて心からの感謝を申し上げたい。

〈新島学園女子短期大学教授〉

キリスト教学校教育 2002年11月号2面