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一般社団法人キリスト教学校教育同盟 Association of Christian Schools in Japan Since 1910

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キリスト教学校教育バックナンバー

第50回小学校教職員協議会

「人をはぐくむキリスト教学校-いのちを学ぶ-」

吉田 太郎

会場校 学校法人 自由学園(初等部)
日時  二〇〇五年六月十八日(土)

 人をはぐくむキリスト教学校という主題のもと、今年度は東京都久留米市にある自由学園を会場としてキリスト教学校教育同盟加盟校の小学校十七校の教職員(他に幼稚園五園)が一同に会し、小学校部会の教職員協議会を行った。西武池袋線ひばりが丘駅下車で徒歩十分、閑静な住宅街を抜けると、木々に恵まれた自由学園に到着する。自由学園の広大なキャンパスは、けやきの木や青々とした芝生、歴史的建造物に指定された趣のある建物など、時代をタイムスリップしたような錯覚を覚えるような穏やかな空間だった。

 開会礼拝では賛美歌の奉唱の後、マタイによる福音書二十三章八‐十二節が朗読され、「私たちのただ一人の先生」というテーマで自由学園の矢野恭弘副学園長による説教が行われた。一九二一(大正十)年、日本で最初の女性新聞記者となった創立者、羽仁もと子が「社会をよくするためには家庭から」という信念のもと、自分たちで理想の学校を創ろうと決意したことや、真理はあなたを自由にする(ヨハネ8・32)から「自由学園」と名づけられたことなどが紹介された。人はみな自分で生きていかなければならない存在であるということ、「宗教のつめこみ」は一番危険だということ、学校は「家庭」であり生徒と教師は「家族」であり、「先生」はただ一人キリストだけであること、そしてわたしたちは皆、兄弟姉妹なのだから互いに学びあう存在なのだということが語られた。時代を経ても変わらない自由学園の精神が、キリスト教学校で働くわたしたちに多くの学びを与えていただいたすばらしい礼拝だった。

 その後、小学校部会の委員長、捜真小学校の佐藤勇校長の挨拶、自由学園の十文字輝雄学園長の挨拶があり、自由学園の中村弘之初等部部長により講師の紹介へと進んだ。

 全体会の講演は自由学園の卒業生でもある写真家・映画監督の本橋成一氏により「いのちを学ぶ」と題して行われた。本橋氏は一九八六年のチェルノブイリの原発事故に関わる中で「豊かさとは何だろう」ということをテーマに作品を世に送り出してきた。チェルノブイリ原発の周辺は放射能の汚染により今でも政府が強制避難勧告を出している。最新作「アレクセイの泉」から、勧告を拒否し被災した小さな村ブジシチェ村に暮らす村人たちの力強い生き方がスライドで紹介された。かつては六百人が暮らした村は、今では五十五人の老人と、アレクセイという一人の若者だけになってしまった。素手で土を掘る老婆の写真、老人には似つかわしくないゴツゴツとした手、その「手」がしっかりと「道具」として働いていたのがとても印象的だった。いまだに畑や森、学校の跡地など、村のいたるところで放射能が検出されているが、不思議なことに村のはずれにあるその泉から湧き出る水からだけは有害な放射能は検出されない。「なぜって、それは百年前の水だからさ」と村人たちは自慢そうに答える。人間はこの百年、自然を破壊し、何の豊かさを求めてきたのだろう。

 講演の中で最も印象的だったのは「教育は不便なるがよし」という本橋氏のメッセージだった。モノが増え、便利になればなるほど、教育は難しくなる。現代の学校や社会では子どもたちが「いのちを学ぶ」勉強がしづらくなっているのではないか、ということを考えさせられた。

 昼食会は場所を自由学園の女子部の食堂に移し、和やかに行われた。例年の協議会との大きな違いの一つは、準備していただいた昼食がすべて女子部の生徒さんによる手作りの料理ということだった。香ばしい手作りのパンに、温かなビーフシチュー、サラダなど、どちらも大変おいしくいただいた。印象的だったのは、調理をしてくれた生徒さんの代表がそれぞれメニューの紹介をしてくれた際に、「一番大切にしたことは心をこめて作ろうということでした」と挨拶したことだった。「心をこめて作る」とてもシンプルな、でもとても大切なことを教えてもらった。時間を知らせる「時の係り」さんの鳴らすチャイムを遠くで聞きながら自由学園で行われている「手」づくりの教育の成果を見たような気がした。

 その後、分科会では十三のグループに分かれ「信仰をはぐくむ」「感性をはぐくむ」「いのちをはぐくむ」「知恵をはぐくむ」「奉仕する心をはぐくむ」「からだをはぐくむ」「働く心をはぐくむ」というテーマで分かち合いのときが持たれた。

 その後、お茶の会では今年度から新たに校長に就任された先生方のご紹介や、小学校開設を控えた、同志社大学付属小学校設置準備室の先生方、関西学院の山内一郎理事長などの挨拶があった。

 第五十回の節目の年を迎え、過去最大の参加者となった小学校部会の教職員協議会、混沌とする社会情勢の中で、ますますキリスト教学校が連動し、それぞれの使命を果たしていかなければならないことを改めて確認する機会となった。

〈立教女学院小学校宗教主任〉

キリスト教学校教育 2005年9月号4面