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一般社団法人キリスト教学校教育同盟 一般社団法人キリスト教学校教育同盟

希望と喜びに生きる-新たな転換期に立つキリスト教学校-

一般社団法人キリスト教学校教育同盟 Association of Christian Schools in Japan Since 1910

Assocition of Christian School in Japna Since 1910

キリスト教学校教育バックナンバー

各地区の行事

西南地区
霊 性 の 恢 復

第55回夏期学校
第45回新任教師オリエンテーション

磯谷 廣美

 新任教師オリエンテーションと夏期学校が合同で、八月二日(火)から三日(水)の二日間にわたって、主題「人をはぐくむキリスト教学校 ―建学の精神をともに担う―」をテーマに開催された。開催地は北九州市のリーガロイヤルホテル小倉で、参加者八十二名であった。今回は初めての試みとして、関西地区カウンセリング委員会の協力によってスクールカウンセリングの演習を企画し大きな成果をあげた(演習内容、方法は後記掲載)。

 新任教師オリエンテーションの開会礼拝は樋口紀子先生(梅光学院宗教主任)により、「苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生む」ことが明快に力強く語られた。夏期学校開会礼拝は寺園喜基先生(地区代表理事・西南学院長)により、ヨハネによる福音書を通し、愛の行為として一番身近な対話相手である学生生徒にどう立ち向かっていくかが問われていることが強調された。樋口紀子先生は新任教師オリエンテーションに続き、朝の礼拝でマタイによる福音書を通し三つの生き方を示された。「キリスト教学校に勤め、人を相手に、人を育てるという立場にある時、大事な事は何を教えるかではなく、どのような生き方を提示できるかである。その事は仕えるということであり、まさに私達に求められているサーバント・リーダーシップである。これこそがイエスが実践された態度であり、今も生きて示してくださる態度である。この精神を皆で実行していきましょう」と語られた。

 林田秀彦先生(鎮西学院理事長・院長)による二回の講演は「霊性の恢復」という主題で「Servant Leadership」と「キリスト教学校教師の使命と責任」について語られた。「敗戦六十年・被爆六十年の節目の年にNo.1からOnly one for others へと価値観を共有せよ」との呼びかけは共感を生んだ(詳細は後記掲載)。

 徳永徹先生(福岡女学院理事長)は閉会礼拝で「喜びを力に」と題して、凛として花一輪という言葉を出され、喜びを力に生きておられる古い卒業生と、輝きながら喜びと感謝で皆と共に役に立つ命に感謝し喜びを力にしてなくなられた卒業生と、先生自らの関わりの中から私たちの生き方の姿勢について語られた。それぞれ力強く魂に迫るお話を伺い、心が引き締まるものであった。

A.新任教師オリエンテーション(八月二日 午前)では、寺園喜基先生(地区代表理事・西南学院長)が「キリスト教学校で働く」と題して、

Ⅰ.キリスト教学校との出会いを自分史を振り返りつつ、私立学校で働く上において、経営者感覚が各人に必要であり。私学で働く上での学問・教育の公共性という意識を強くもつ必要性を訴えられた。

Ⅱ.私立学校としての職場は、収入の約八〇%を学生生徒の収入に頼っているので教育労働者として、学生生徒に接することが教育即(イコール)教育研究経費とならなければならない。昨今の少子化傾向により定員割れが起こっている現状の中で、学生生徒を十分に確保し経営を安定させる事が大きな課題である。従って、その時代のニーズに答えるために、柔軟に学校の伝統文化、建学の精神に立つ事が必要であることを強調された。また、教育の主人公は学生生徒であり、教師は生徒に理解させる事に徹底し、サービスに徹底する。まさに教師のリーダ-シップはサーバント・リーダーシップである。

Ⅲ.キリスト教学校の喜びと使命は、学校や大学では判断能力、生き方、価値観、智恵というものを教える。そしてキリスト教学校は「狭いキリスト教という枠の中で普遍的概念として智恵・判断力・生き方・人権・愛・正義・平和」を教えなくてはならない。そして、西南地区の各学校の建学の精神を紹介し、それぞれの学校の担い手は創設の精神を受け継ぎ、それが学校を支えている事を訴え、独自の建学の精神に従って教育をすることが大切であると述べられた。キリスト教学校で生徒に教える時、又自分で立つ時に必要な最大の道は、苦しみを担う道を選ぶことである。キリストの十字架は失敗して苦しんだのではなく、神の恵みが現れるためであった。我々の拠って立つ教育は、キリストの十字架に支えられた苦しみを担う教育である。その十字架のキリストがいる苦難故に苦難が希望となると語られた。最後にまとめとして、キリスト教学校で働く者一人一人が建学の精神に従って教育をし、智恵をしぼり神の導きを語っていく中でキリスト教の香りのする学校を作り、キリスト教学校で働く喜びと使命を担っていきましょうとアピールされた。

B.夏期学校(八月二日午後から三日)では、林田秀彦先生(鎮西学院理事長・院長)が、「霊性の恢復」を主題として、鎮西学院平和教育ハンドブックをもとに、平和への取り組みを報告し「人をはぐくむ喜び」を語られた。

講演 Ⅰ 「Servant Leadership」 1.捧げる祈り、希望の精神 2.平和宣言 3.新しき人に、慌しい教育活動から離れ、それぞれの学校の歴史の源流にある「霊性」に思いをめぐらし、その恢復の時を持つことが不可欠である。

講演 Ⅱ 「キリスト教学校教師の使命と責任」

 平和教育の取り組みから、今日日本の状況の中でどうしてもキリスト教教育でなければならない、その霊性に基づく「育てる」教育の重要性を思うキリスト教教育は、No.1志向を克服しつつ、Only one for others の価値観を示していく。その重要性は教師が価値観を共有し,この働く場に召されているという召命感(BERUF)を持って教育に取り組む必要性があり、教壇に立つ時、生徒達と向かい合う時、多くの困難と疲れに容赦なく打ちのめされる。しかし、そのことの一つ一つが糧となり自らを高め、学び合う喜びの体験となり、「祈る教師」ともなる、それは学問のエネルギーと教育力がアップするだけでなく、教育(学問)の性格が違ってくる。今、特に医学の世界にこのことは求められていると言える。最近の一連の事故やトラブル、教育現場の問題などは職業倫理の希薄化、霊性の喪失を思わせる。この中で、キリスト教教育への期待は大きく、その責任の重さを感じる。学校の論理で、

 教師の論理で、前年踏襲型からの脱皮「日々新たなる」意識の改革が必要であり、教育の透明性が求められ、生徒と向き合うことの大切さが重要である。目的を達成できなかったときには、何が、どこが、問題なのかを理解し合い、説明責任を果たすためには、生徒学生の実態を把握し、課題を明確にする力、生徒保護者の不安や願いを受け止める力が必要である。

 キリスト教学校の生命は礼拝にある。この礼拝で、常に建学の精神が想起される。

1、向き合う関係から共に見上げる関係、関係の中心に主を仰ぐ。「砕かれたる魂」 2、霊性は自由と秩序を明示する、主の訓練を軽んじてはならない。愛の命令を体験する。3、学院の絆、アデンテイテイと存在理由を明らかにする。4、時代の変動の中で「我ここに立つ」「場」の明確さ、この礼拝の祈りの中に、キリスト教学校が日本の教会の責任を担い、伝道となるべく志が与えられる人材の輩出を祈りたい、それがミッションの使命である。

 新任教師オリエンテーション(中高部会と大学部会の合同)での、カウンセリング演習では、講師原田孝先生(清教学園相談室参与)、谷綛保先生(関西学院中高部カウンセラー)、井上寿美子先生(大阪女学院高等学校)の三名を講師として、まず「私の宝もの」の演習を行った。内容は、各々宝物を描写してもらい、発表する方法で①自己紹介②アイスブレーキング③初対面の相手との関係を和らげる④宝物と顔を結びつけて覚える⑤対話のきっかけとなる⑥生徒達がそれをきっかけに仲良くなる⑦学年始めの四月に行うと効果的、というものであった。

 次に、「学校の問題点」の実習では、十枚のポストイットに自分の職場の問題点を十個書き出す。全員のものを出し合い、同一種類別に整理していく方法で、①学校の問題点の解決を目指す。但し解答はなし②対話をする事で問題を整理する③今出てきた問題点を、先生方なりの解決策、意見をもつと良い、ということを示唆された。

 中高部会では「―スクールカウンセリングの実際―」について、原田孝先生、谷綛保先生、井上寿美子先生の三名の講師の指導で、生まれた月・日ごとに座り二組のペアを作り幾つかの実践を行うという、傾聴訓練の実施をした。カウンセリングにおける人間学の基本と六つの応答態度・発言について資料をもとに学び、聴くことの重要性について実践しながら学ぶ時間であった。

 大学部会では、片山寛先生(西南学院大学教授)によって、John Henry Newman 『大学の理念』の本を参考文献として、①知識を得ることそれ自体が大学の目的である②精神を拡張することが大学の目的である③功利主義に対する反論 ④宗教との関わり ⑤今日の大学の課題のなかで、(イ)大学の大衆化(教授と学生の間の疎外)(ウ)学問分野相互の疎外(エ)現代社会と大学の間の疎外、という内容のセミナーが行われたが、先生は「大学とは『ある特定の身分の特権としてではなく、人間の可能性としての理論・知識Theoriaの自由な空間である。この可能性はいかなる人間においても実現されうるものであって、この可能性を全ての人々のためにますます発展させることが、大学に課せられた使命である』というガダマーの主張と『大学はTheoriaの自由な空間でなければならない』というニューマンの基本理念が、今でも私たち大学に生きる者に問いかけ続けていると言わなければならない」と問題提起をされた。

 グループ討議では大学(二グループ)、大学(新任)、中高(二グループ)、中高(新任)の六グループに分かれ、講師の先生方を助言者として「演習」を深める討議を行った。各々が人間ネットワークを作り出し、教育実践を通して、キリスト教学校での理念と使命を実現していくことが共通認識された。そして、私たちが神によって成長させられる存在であることを学んだ時であった。

〈西南女学院中学校・高等学校教諭〉

キリスト教学校教育 2005年10月号7面