キリスト教学校教育バックナンバー
<シリーズ>
生きる 学校は今 Part2
志賀 親則・柏木道子
広報委員会では、「生きる 学校はいま」を再連載することとしました。
前回、ますます深刻化する児童、生徒、学生減に対して、キリスト教主義学校として同特徴づけるか等の取り組みを、特に大学短大を持たない中高校から始め、専門学校、小学校、短大の紹介をしてまいりました。
今回は、二十一世紀に入っての新たな展望や特色ある教育をめざした項目・取り組みなどを、前回未掲載の学校を順次ご紹介していく予定です。ご協力をよろしくお願いいたします。
愛農学園<三重県伊賀市>
有機農業の取り組みによる後継者教育
志賀親則
一はじめに
愛農高校は、全国愛農会(一九四五年十二月、無教会キリスト者小谷純一〈一九一〇~二〇〇四〉によって設立。農業を愛し、農業を通して平和を築く農民団体)が、一九六三年十二月県の許可を受けて創立した、キリスト教主義による全寮制の農業高校です。創立の目的は、農業に誇りと喜びをもって取り組む、後継者養成であります。農業高校は、全国に三百八十三校ありますが、私学で単独の農業高校は、本校が唯一であります。現在多くの農業高校が、学科の改編を進めています。しかし本校は、目先の学科改編は行わず、土を大切にした「農業科」に固守しています。何故なら建学の精神の一節に、「土を愛する」ことが記されており、土に密着した食料生産に軸足をおいた農業教育をするからであります。創立以来卒業生の就農率は四十五パーセントであり、この数字は農業経営者育成高校の平均就農率十パーセントと比較すれば、突出した成績です。
二建学の精神と特色教育
本校は私学であり、建学の精神があります。建学の精神をコンパクトにいえば、「神を愛し、人を愛し、土を愛する」三愛精神であります。この精神を最初に唱道したのは、グルントヴィ(デンマーク、一七八三~一八七三)でした。一八六〇年デンマークは、隣国プロシア(現ドイツ)やオーストリアと戦争をしました。デンマーク軍は果敢に戦いましたが、敗戦国になりました。そのために、ホルスタイン州とシュレスウィヒ州を失い、国民は意気消沈していました。そこに現れたのがグルントヴィでした。彼は牧師であり、歴史家、讃美歌作詞作曲者でもあり、教育者でした。聖書から生まれた「神を愛し、人を愛し、祖国を愛する」三愛精神を掲げて学校を作り、教育によって人を育て、農業による国づくりで復興に大きく貢献しました。
三
デンマークのことを日本へ最初に伝えたのは、内村鑑三(一八六一~一九三〇)でした。内村は一九一一年に今井館で「デンマルク国の話」と題して講演をしています。内村の愛弟子である藤井武(一八八八~一九三〇)は、一九一五年山形県に自治講習所を開設し、日本で初めて三愛精神を教育の土台に据えて、人間教育をしています。小谷純一にも三愛精神は伝えられ、本校の建学の精神の根幹をなしています。
建学の精神を具現化した特色教育は、四つあります。第一は、聖書の学びであります。小谷が生徒にいつも語っていたことは、「農業者たる前に人間たれ」でした。「人間たれ」とは、良心の覚醒した人のことであります。良心教育をする上で、聖書の学びが最もよいを考えています。第二は、全寮制教育です。寮生活を通して「自分を愛するように隣人を愛する」ことの意味を学んでいます。第三は、農業教育です。本校の農業教育は、後継者を養成することにあります。農場では、有機農業に取り組み環境に優しい学びをしています。科目の中で、有機農業の講座を設定しています。三百八十三校の農業高校の中では、唯一の取り組みであります。二〇〇五年四月には、朝日新聞社主催「明日への環境賞」を受賞しました。この賞を教育機関が受賞したのは、本校が初めてでした。第四は、食農教育です。私たちの体は、食べ物によってつくられています。農薬や化学肥料によって汚染した農産物、さらに食品添加物が多く含まれた食品を毎日食べていれば、不健康になります。本校では、農場で安全に生産された食材の自給率が六十六パーセントです。「農場から食卓へ」を大事に取り組んでいます。正しい食農教育は、人間を育てることにとても深く関係していると考えています。
〈愛農学園農業高等学校校長〉
大阪キリスト教学院<大阪市阿倍野区>
百周年を迎えての今とこれから
柏木道子
キリスト教学校教育同盟の加入校には既に創立百二十年~百三十年を迎えておられる学校が多くあり、その学校の記念誌には十九世紀末から今日に至るそれぞれの苦難に満ちたまた輝かしい歴史が綴られている。いずれの学校も日本が経てきた歴史に見られるさまざまな弾圧や抑圧に苦しみながらも海外や国内のキリスト者の祈りに支えられ、主の憐れみにより雄雄しく立ち上がって今日を迎えておられる。
本学も二〇〇五年に遅まきながら神の恵みの中で学院創立百周年を迎えることができた。学院関係者とともに心から喜ぶものである。二〇〇五年の十一月一日~三日に連続して記念行事を行った。全学生、教職員と近隣の参加者を得た「ゴスペル・イン・文楽」は大阪の伝統文化の一つである文楽によってイエス・キリストの生涯が地響きのように迫る義太夫節で語られ聖書の登場人物が精巧に製作された文楽人形によって演じられた。一九九九年に本学において初演された「キリストの生涯」から六年を経ての再演であり、日本文化の手法で福音が伝えられるユニークな行事であった。
一九〇五年に伝道者養成の私塾として出発した本学院にとってキリスト教主義の教育機関としての福音宣教は本学として第一の使命である。十一月二日には東京神学大学教授の近藤勝彦先生を迎えて「二十一世紀の伝道と神学教育」というテーマで本学の神学科教員学生挙げての講演会とシンポジュームを行った。十一月三日の学院創立百周年式典においてはキリスト教学校教育同盟前理事長で関西学院理事長の山内一郎先生と大阪女学院院長・大学学長の関根秀和先生から同じキリスト教主義にたつ高等教育機関としての祝辞と激励のおことばをいただき、一同感謝とともに使命に向かって新たな思いに満たされた。
学内では学院創立百周年を機にこれまでの歴史を踏まえ次の世紀への決意表明として「建学の精神」を検討し協議して以下のように文章化した。
「本学院は自由メソヂスト教会の伝統を汲む河邊貞吉により、一九〇五年にキリスト教伝道者を養成する神学校として創設された。第二次世界大戦で焼失した校舎は一九五二年、北米フリーメソジストの援助により再建され、百年にわたって聖書的人間観に基づく人格教育をおこなってきた。学院第二世紀においても『道・真理・いのち』であるイエス・キリストに倣って、神と人に仕える真の人間の育成を目指す。」
本学は総収容定員が六百名ほどの小規模校である。チャペルはそれぞれの学科で全学必修とし、音楽チャペル、ゲストスピーカーを迎えミッションを果たすべく学生への福音宣教を進めている。高等教育機関としての短期大学は現在種々の点で厳しい状況に置かれている。神学科と幼児教育学科は専攻科を持ち四年間の学びが可能であるが、今後も短期大学として存続するか、四年制大学へ移行するか大学・短期大学との並立を目指すか、検討を重ねている。百年の伝道者養成の歴史は主の導きによって今日を迎え、一九五二年に短期大学が開設されてからの五十年以上にわたって近畿地区を中心に送り出した一万五千人の卒業生は福音宣教のためキリスト教会に仕える者、近畿圏を中心に小学校教諭、幼稚園や保育園で働き人として活躍している。
交通の便のよい大阪市の中心にあって公開講座や子育て支援に関する地域密着型の生涯学習は二十年前から実施しているが、今後さらにその面での役割を果たしたく教職員が一致して協力し激動する時代の中でその使命を果たしたく願っている。
〈大阪キリスト教短期大学学長〉
キリスト教学校教育 2006年4月号4面