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一般社団法人キリスト教学校教育同盟 一般社団法人キリスト教学校教育同盟

新たな時代におけるキリスト教学校の使命と連帯-いのちの輝きと平和を求めて-

一般社団法人キリスト教学校教育同盟 Association of Christian Schools in Japan Since 1910

Assocition of Christian School in Japna Since 1910

キリスト教学校教育バックナンバー

第50回事務職員夏期学校
主題講演

キリスト教学校で働くとは?
-サーバントリーダーシップの実践の重要性-

池田 守男

 本年度事務職員夏期学校は7月29~31日、御殿場・東山荘で開催された。参加者は四十法人より百十八名であった。

1.今日の世相

 今日の子供たちを巻き込んだあまりに悲惨な事件や企業の不祥事をみますと、社会のゆがみ、ひずみを強く感じざるを得ません。昨今の社会現象は個人のみならず、企業、また学校を含むコミュニティーの問題でもあり、その実態と表裏一体だといえます。私たちは何としても人間本来の、人にやさしい、温かみのある社会を取り戻さなければなりません。

 学校においても、企業同様の問題を抱えています。少子化の進行で学生が減り、規制緩和で新規参入が容易になる等、学校を取り巻く環境は厳しいものがあります。今日の社会状況を直視して、その使命を自覚し、果たしていくことが益々求められています。

2.経済の時代から文化の時代へ

 今日、最も欠落しているのは「公」の精神ではないでしょうか。個人はあまりに自己中心になっているように思えてなりません。企業にも「法に触れさえしなければそれで十分ではないか」という風潮がみられます。社会全体にモノ中心、経済至上主義的な考えが蔓延しているといわざるを得ません。

 真に豊かな社会の実現のために、私たちは経済性の追求のみならず、人間性・文化性・社会性を同時に追求する必要があります。私と同郷の大平正芳元首相は一九七九年の施政方針演説で「経済の時代から文化重視の時代へ。真の生きがいを追求する社会を」と述べられています。経済(モノ)だけでは真に豊かになれない、ということを当時から主張されていたのです。

3.新渡戸稲造著『武士道』の精神

 私は二十一世紀の指針の一つとなるのが、新渡戸稲造著『武士道』だと思っています。そこには古来から脈々と流れる日本人の気高い精神性が余すところなく書かれており、多様な価値観を受け入れ、その融合を求める新渡戸先生の考えに、私は深い感銘を受けました。なかでも「キリスト教を武士道の幹に接ぎ木する」という「接ぎ木論」には、大きな示唆を与えられました。

4.サーバントリーダーシップの実践

 二〇〇一年、資生堂の社長に就任した私は、この「接ぎ木」の考え方に倣い、創業の精神を台木に、新しいマーケティングを接ぎ木し、経営改革に取り組みました。

 資生堂の創業の精神は社名に込められています。当社の社名は中国の『易経』の一節「至哉坤元、万物資生」から頂いています。その意味は「天地のあらゆるものを融合して、新しい価値を創造し、お客さまや社会に貢献する」というものです。

 私は創業の精神に立ち返り、お客さま、取引先、私どもの三者が出会う「店頭」を基点に、改革に着手しました。改革を徹底するために組織のあり方を見直しました。従来の社長を頂点としたピラミッド型組織から、お客様が一番上にきて、その次に販売第一線、続いて支社、本社、最後に社長がくるという「逆ピラミッド型の組織」を提唱したのです。あわせて、上の者が下の者を支えるという「サーバントリーダーシップ」の精神を訴求しました。

 この実践により、社員一人ひとりが組織全体から支えられているという自信と誇りを持って仕事に取り組めるようになり、同時にお客さまに奉仕するという「ぶれない価値基準」を持つようになります。さらに、自主性を発揮できることで、やる気と働き甲斐、更には生きがいも生まれ、それが組織の活性化に繋がり、仕事そのものが楽しくなるという良循環に結びつくのです。

 道半ばではありますが、「組織においては一人ひとりは組織やその長に『奉仕』するのではなく、お客さまとその先にある社会に『奉仕』するものである」という精神は、社内に浸透してきており、これからも永遠のテーマとして取り組んでいきたいと思っています。

5.コミュニティーにおける関係性の深化

 今日、「サーバント」の精神、即ち「奉仕する」「仕える」「支える」という精神が、あらゆる組織に欠落していると思います。権利だけを主張し、義務を果たさない、「与えられる」ことが当然、という風潮が蔓延っています。聖書に「与ふるは受くるより幸ひなり」という言葉があります。「与える」喜びは、「受ける」喜びよりいかに大きいか。私は与える喜びに徹する社会であってほしいと切に思っています。

 私達一人ひとりは、家族、学校、企業、地域社会等様々なコミュニティーに属していますが、そのコミュニティーにおける関係性の希薄化が、今日の様々な社会問題に繋がっていると云わざるを得ません。日本人は元来、「他者や自然に対する思いやりや優しさ」といった美徳、倫理観を持っていました。江戸時代には「江戸しぐさ」という庶民の礼儀作法や日常生活の基本となる所作があり、他者を慮る精神が色濃く落としこまれていました。関係性が濃密になれば、そのなかで、知恵や見識、一般社会常識やマナー、教養などを身につけ、他者を思いやる想像力が育まれます。今こそ日本古来の美徳、倫理観を思い起こし、一人ひとりが社会との接点を深め、真に豊かな社会を築いていかなければなりません。

6.ミッションスクールの使命

 今後、各学校では、その個性を磨くことが益々大切になってくると思います。幸いミッションスクールにはキリスト教の精神に基づく人間観、歴史観、人生観、自然観、職業観、勤労観等々しっかりした基盤があります。キリスト教学校教育同盟第五十回夏期学校という節目の年を機に、あらためて他の大学にはない、独自の建学の精神を活かした学校づくりをすすめて頂きたいと思っております。教職員が一体となってサーバントに徹し共に努力しましょう。有難うございました。

〈東洋英和女学院理事長・㈱資生堂相談役〉

キリスト教学校教育 2006年9月号2面